準半加法圏 → 優半加法圏 : ヤコビ微分圏の下部構造

ヤコビ微分圏: はじまり - 檜山正幸のキマイラ飼育記 (はてなBlog) で、準半加法圏と書いていたが、優半加法圏にしようと思う。

理由は、半加法圏に対して「なにか足りてない」のではなくて、内部に半加法圏をホストする親の圏だから、「優〈super〉」がいいと思うので。

  • 優半加法圏〈sumper semiadditive category〉

[追記]優半加法圏もやめるかも知れない。ラムダ計算が載っているから、「ラムダ」を付けたほうがいい気がしてきた。[/追記]

ヤコビ微分圏

まず、デカルト微分圏への不満

  1. 二階の微分に関する2つの公理がわかりにくい。もっと直感的な公理から定理として導きたい。
  2. 微分の局所性が定式化されてない。これはマズイと思う。
  3. 微分作用素の線形性は公理じゃないだろう。
  4. 偏微分が明示的に定義されてない。

ヤコビ微分圏はこれらを解決する。

  1. 二階の微分に関する公理は偏微分に関する公理に置き換える。
  2. 微分の局所性を明示的に定式化する。
  3. 微分作用素の線形性は、別な公理から導く。
  4. 偏微分は明示的に定義する。

ヤコビ微分圏に特徴的な構成素は:

  1. 線形対象と線形射からなる線形部分圏 L
  2. 開集合の定式化である、開包含射の部分圏 O と開包含射 oiX,Y:X→Y 。局所性は、開包含射で定義する。
  3. 圏論的構成子である線形台〈linear support〉 lin:|C|→|L|
  4. 線形内部ホム [,]
  5. 線形内部ホムに関連する演算子 ・(適用), *(内部結合), △(内部ペアリング)、▽(内部コペアリング)、\oplus(内部双積)。外部双積もあるが、デカルト積×で代用する。
  6. ヤコビ微分コンビネータ J:C(X, Y)→C(X, [lin(X), lin(Y)])
  7. 基本射: 線形部分圏内のデカルト積の構造射 λA, ρA, αA,B,C、すべての開包含射(恒等射を含む)、左線形射/右線形射、ポイント射(1からの射)
  8. 基本演算: 直積×(線形部分圏では双積)、結合\circ
  9. 偏微分の交換公理

次のものは定理として出る。

  1. 制限に対する微分の局所性(開包含の微分公理より)
  2. 微分作用素微分コンビネータ)の線形性
  3. 双線形写像微分公式
  4. ライプニッツ法則
  5. 偏微分・全微分の公式
  6. 逆関数微分公式

圏内の構造、具象n-圏、増強など

「A構造を持つ圏内でB構造を定義できる」状況がある。例えば、デカルト構造を持つ圏=デカルト圏内で、モノイド構造=モノイド対象を定義できる、とか。

このときのA構造は圏がもつべき構造なので、Aメタ構造、またはA-2-構造となる。A-2-構造を持つ圏全体は2-圏をなす。このようにして2-圏が作られるが、圏の圏であるので、単なる2-圏=抽象2-圏とは違う。

n-圏Cが、具象n-圏であるとは、その対象がすべて(n-1)圏であること。例えば、具象2-圏は、対象が1-圏なので「圏の圏」。具象3-圏は対象が2-圏なので「2-圏の圏」。具象n-圏は、抽象n-圏よりはるかに強い構造を持つ。

n-セオリーは、構造付き(n-1)-圏からなる具象n-圏を定義するものだと言っていい。1-セオリーは、構造付き0-圏からなる具象1-圏を定義し、2-セオリー〈ドクトリン〉は、構造付き1-圏からなる具象2-圏を定義する。3-セオリーは、構造付き2-圏からなる3-圏を定義する。などなど。

n-セオリーは、(n-1)-圏(の族)に構造を付与するn-指標を持つ。構造付き(n-1)-圏からなる具象n-圏を定義するものだと言っていい。1-指標は、0-圏に構造を与える。2-指標は、1-圏に構造を与える。3-指標は2-圏に構造を与える。などなど。


それと、次の概念がある。

  1. 構成子
  2. オペレータ/コンビネータ
  3. モダリティ
  4. 増強

Cから圏Dへの構成子〈constructor〉とは、

  • c:|C|→|D|

という写像。一般には、

  • c:|C|→|D|k

c, dが、CDの構成子のとき、コンビネータ ψ:c⇒d とは、

  • ψA:c(A)→d(A) in D

コンビネータD = Set で、C = Bn のときが多い。

  • For A∈|B|n, ψA::c(A)→d(A) in Set

構成子は関手ではなく、コンビネータは自然変換ではない。が、使う場面は多い。

モダリティは、圏の対象に構造を割り当てる対応。構造の種類により、モノイド・モダリティ、ベクトル空間モダリティ、可換環モダリティなどという。モダリティの定義域は、対象類の部分類。

構造Sのモダリティが定義されていて、対象Aがモダリティの定義域に入っているとき、AはS対象と呼ぶ。SモダリティとS対象は似た概念である。

圏のホムセットがある構造Sを持つとき、S増強されている〈S-enhanced〉という。すべてのホムセットがS-増強されているとき、S-増強圏と呼ぶ。豊饒圏ではない。部分圏だけS増強されていることも多い。

微分圏では、部分圏が加群や半加群として増強されているケースを扱う。

ニョロニョロ線形代数

圏論の随伴とメイト理論を使った線形代数。双対性はコンパクト閉圏のなかで定式化する。背後には2-圏論

線形代数 メイト理論
ベクトル空間 関手
双対空間ペア 随伴関手ペア
双対パートナー空間 随伴パートナー関手
余評価 単位
評価 余単位
双対メイト 随伴メイト
スカラー 集合圏

微分幾何用線形代数

呼び名:

  1. Vk の要素 = ベクトル横k-タプル
  2. (V*)k の要素 = コベクトル縦k-タプル
  3. Rk の要素 = スカラー縦k-タプル
  4. Rk の要素 = スカラー横k-タプル

積=双線形写像 を定義する。dim(V) = n で、k は任意の自然数

  1. Vk × Rk →V k-スパニング
  2. (V*)k × V →Rk k-{座標}?計測
  3. Rk × (V*)k →V* k-余スパニング
  4. V* × VkRk k-余{座標}?計測
  5. (V*)k × VkRkk 双計測

カリー化した場合:

  1. L(Rk, V) k-スパニング写像 スカラー縦タプルから
  2. L(V, Rk) k-計測写像 スカラー縦タプルへ
  3. L(Rk, V*) 余スパニング写像=余ベクトル空間のk-スパニング写像 スカラー横タプルから
  4. L(V*, Rk) 余計測写像=余ベクトル空間のk-計測写像 スカラ横タプルへ

ほんとは2次元の絵を描くべきだが:

  1. 双対メイト L(Rk, V) ←→ L(V*, Rk)
  2. 双対メイト L(Rk, V*) ←→ L(V, Rk)
  3. 同伴/逆メイト L(Rn, V) ←→ L(Rn, V*)
  4. 同伴/逆メイト L(V, Rn) ←→ L(V*, Rn)
  5. 逆 LIso(Rn, V) ←→ LIso(V, Rn)
  6. 逆 LIso(Rn, V*) ←→ LIso(V*, Rn)
  7. 表現 L(Rk, V) ←→ Vk
  8. 表現 L(Rk, V*) ←→ (V*)k

場=セクションへの拡張

一点 領域 別名
スカラー スカラー 関数
ベクトル ベクトル場
コベクトル コクトル場 微分形式
行列 行列場 関数行列

行列場(の全体)は ΓM(U, Mat[R](n, m))、関数行列(の全体)は、Mat[CM(U)](n, m) 。

キーワード無し構文の気休め語いろいろ

気休め語〈consolation word〉で印象が変わる、という大問題。逆に、気休め語を分析する。

列挙。随時追加予定

オフィシャル構文 気休め語
1-σ signature, class, typeclass, specification, interface, traits
1-γ construction, functor, abstractclass, adaptor, transformer
1-γ from Δ structure, implementation, class, instance, object, record, tuple, row
0-σ subset, finiteset, enum, tuple, record, object
0-γ function, assignment, map
2-σ doctrine, metaclass, metasignature
2-γ
0 sort, type, object
0-σ{0} element, point, slot
1 operation, operator, function
1 :_1→* element, point, constant
1 :*→_2 predicate, proposition, condition, constraint
1 :this→* property, attribute, query
1 :this→this method, command
n+1 equation, assertion, axiom, judgement, rule

反変ベクトルと共変ベクトル

反変ベクトルと共変ベクトル -- これはイカンわ、ダメなヤツだわ。因習的微分幾何や物理で出てくるヤツ。まったく分からんヤツ。

とりあえずは、特定のベクトル空間Vに対して、Vの要素が反変ベクトル、Vの双対空間の要素が共変ベクトル。

が、ベクトル空間はフレーム付きだとして、VとV*にどのようなフレームを選ぶかが問題になる。またフレームを取り替えたとき、フレームのトランジション行列と、座標のパッシブ変換行列の関係も問題になる。

いくつもの障害がある。

  1. 基底とフレームとフレーム射の違い。
  2. 双対フレームは、双対ではない!
  3. トランジション行列(フレームの空間でのアクティブ変換)と座標変換(パッシブ変換)
  4. フレームの縦と横。

横タプルと縦タプルの積(双線形写像)をベースに、カリー化を使って理論の再構成が必要そうだ(いずれ書く予定)

微分計算の作り直し

多様体上では、「変数xに関する微分」は意味を持つ。が、「変数」は「関数」の意味で、「多様体上の座標成分関数xに対する微分」が意味を持つ。

  • 変数=座標成分関数

 \frac{\partial}{\partial x^i} という記号はダメな記号だ。もう使わないほうがいい。 \frac{d}{d x^i} でよい。\partialの使い所は限定的で:

  1. 標準偏微分作用素  \partial_{i/n}:C(Rn)→C(Rn) として使う。
  2. 座標写像〈チャート写像〉x に対する第i導分  \partial x_i \partial x_i = \frac{d}{d x^i}、これは分数を避けるためだけ。
  3. 接ベクトル場加群の横フレーム  {\bf \partial x} = [\partial x_i ]_{i\in 1..n} = [ \frac{d}{d x^i} ]_{i\in 1..n} = {\bf \frac{d}{d x} }

二番、三番は、分数表記を嫌った略記なので、使いたくなければ使う必要はない。

微分演算子微分作用素〉に関しては

  1. D : フレシェ微分(値は線形写像
  2.  \partial_{i/n} : 標準偏微分(値は実数)
  3. J : ヤコビ行列(値は行列)

この三種の微分作用素がどういう関係かを調べればよい。

微分作用素 導関数 微分係数
D:Cr(X, W)→:Cr-1(X, L(V,W)) Df:X→L(V, W) Df(a)∈L(V, W)
i:Cr(Rn)→:Cr-1(Rn) if:RnR if(a)∈R
J:Cr(U, Rm)→:Cr-1(U, Mat(n,m)) Jf:U→Mat(n, m) Jf(a)∈Mat(n, m)

多様体上で、座標写像〈チャート写像〉xが関与するときは、

  1. i の代わりに ∂xi = d/dxi を使う。
  2. x;pi を xi と書く。
  3. ωi の代わりに dxi を使う。

Rn上では、∂iの双対基底をωiと書く。

  • ωj(∂i) = δji

微分の記法

既存の記法が酷すぎる。代替記法。

  • 例1  \frac{\partial f}{\partial y}(x, y, z) \partial_{2/3}(f)
  • 例2  \frac{\partial f}{\partial y}(x, y, z)|_{(1, 0, -1)} (\partial_{2/3}(f))(1, 0, -1)
  • 例3  \frac{\partial f}{\partial y}(x, y, z)|_{(a, b, c)} (\partial_{2/3}(f))(a, b, c)

 \partial_{i/n} は、C(Rn, R)→C(Rn, R) という作用素(関数を入力して関数を出力する)。

代替記法の略記とメリット:

  •  \partial_{2/3}(f) は、 \partial_{2/3}f でもよい。
  •  \partial_{i/n} のnは省略してもよい。例:  \partial_{2}f
  •  (\partial_{2/3}(f))(1, 0, -1) は、 \partial_{2/3}f(1, 0, -1) でもよい。
  •  \partial_{i/n}f導関数 \partial_{i/n}f(a)微分係数導関数の値)と、簡単に区別できる。

既存の記法を代替記法に直せ。

  1.  \frac{\partial f}{\partial y}(y, z)
  2.  \frac{\partial f}{\partial y}(u, v, w, x, y)
  3.  \frac{\partial f}{\partial y}(y, z, w)
  4.  \frac{\partial g}{\partial a}(x, y, a)|_{(0, 0, 0)}
  5.  \frac{\partial g}{\partial x}(x, y)|_{(a_1, a_2)}
  6.  \frac{\partial g}{\partial x_1}(x_1, x_2)|_{(a_1, a_2)}
  7.  \frac{\partial h}{\partial u_2}(u_1, u_2, u_3)|_{(x_1, x_2, x_3)}
  8.  \frac{\partial h}{\partial x_3}(x_1, x_2, x_3)|_{(x, y, z)}

微分適用、リー括弧、カリー化

X, Y∈Der(A)、f, g∈A のような記号を使う。X:A→A で、ライプニッツ法則を満たす。

微分適用Dとリー括弧Lは、

  • D:Der(A)×A→A, D(X, f)∈A
  • L:Der(A)×Der(A)→Der(A), L(X, Y)∈Der(A)

一般に、f:A×B→C が二項演算のとき、

  • f = f(-, -)
  • 右カリー化 f(-) = f(-):A→[B, C]
  • 左カリー化 f(-) = f(-):B→[A, C]

と約束する。つまり、

  • f(a) = fa ∈[B, C]
  • f(b) = fb ∈[A, C]

この約束のもとで、

さらに、

  • D = D(-) = d
  • L = L(-) = ℓ

と書くことにする。

[追記]
左カリー化、右カリー化、反カリー化以外に、次の同型が使われる。

  •  M \otimes_A N^{*A} \cong [N, M]_A

可換環Aを書かなければ:

  •  M \otimes N^{*} \cong [N, M]

 M \otimes N^{*} \rightarrow [N, M ] という同型写像 (-)^{\sharp} と書くことにすると、

  •  (m\otimes f)^{\sharp}(n) = m(f(n))

通常これを、

  •  (m\otimes f)(n) = m(f(n))

と書いてしまう。

[/追記]