フーリエ解析 要旨の補遺

 群上のC値関数空間は、単にCベクトル空間になるだけでなくてC-環(C-代数)になる。2つの環構造=乗法を持つ。

  • 点ごとのCの掛け算を掛け算とする。
  • 畳み込み演算を掛け算とする。

ひとつの関数空間に2つの環構造を同時に考えてもいいし、ひとつずつ考えてもいい。フーリエ変換フーリエ級数展開含む)は、環構造のあいだの準同型を与える。

周期(基本区間)を [-π, π] にとって、時刻0でのインパルス関数=デルタ関数フーリエ級数展開(離散スペクトル・フーリエ変換)してみると

  • \( a(k) = \hat{\delta_0}(k) = \int_{t = -\pi}^{\pi} \delta_0(t) e^{-\sqrt{-1}(2\pi k)t} \,dt \)

この積分は、t = 0 での値を求めることだから、

  • \( [ e^{-\sqrt{-1}(2\pi k)t} ]_{t = 0} = 1 \)

となり、kに無関係に1になる。これは、S1上の畳み込み積の単位元を点ごと積の単位元に移していることになる。積そのものも計算すると、環の準同型になっていることが分かる。

点ごと積と畳み込み積のどっちをプライマリに考えるかも趣味の問題だが、もとの空間を時間領域としたので、時間領域の畳み込み積(信号変換システムのモデルになる)をプライマリな積で、その畳み込み積が、フーリエ変換級数展開も含む)により、スペクトル空間上の点ごとの積に移る、と思えばいいだろう。

一般に、可換とは限らないC-代数において、複素数λが元fの(代数的な)スペクトルであるとは、f - λ1 が逆元を持たないこと。1は代数(非可換かもしれない環)の単位元

上記の意味でのスペクトルと、線形作用素固有値、極大イデアルや素イデアルの意味のスペクトル、これらを結びつけて、フーリエ級数展開フーリエ変換を位置付けると面白い(だろう、たぶん)。

ところで、英語で harmonic を名詞に使うことがある。複数形は harmonics 。対応する日本語は何だろう? 倍音、高調波とからしい。基本周波数の基本周期関数があるとき、その整数倍の周波数の周期関数を「倍音」と呼ぶらしい。が、フーリエ展開の基底のことをハーモニックと呼んでいる用例がある。調和振動子(単振動子)の「振動」を抜いた感じなので、「調和子」とかがよくないか。

ハーモニック=倍音=調和子は、

  • \( e^{-\sqrt{-1}(2\pi 1)t},\: e^{-\sqrt{-1}(2\pi 2)t},\: e^{-\sqrt{-1}(2\pi 3)t},\: \cdots \)

という、整数kでインデックスされた周期関数(関数空間の元)の列。2πk が 角速度=周波数 になる。kが倍音の倍数を与える。ちなみに、低調波は1/nの周波数を持つ長い(遅い、低い)波。高低は音からの形容詞だろう。

もともと音楽・音響の分野だから、「高調波」とか「倍音」と言うのだろうが、基本円運動の整数倍の回転数を持つ等速円運動の系列もハーモニックスだろう。とりあえず、個々の周期関数をハーモニック、系列全体をハーモニックスと呼ぼう。

ハーモニックは、スペクトル空間側の関数空間の標準基底を張る。離散スペクトルの場合は、整数でインデックスされるの倍音に相応しい。連続スペクトルの場合は倍音って感じじゃないけど、スペクトル空間側の基底元/基底集合を、ハーモニック/ハーモニックスと呼んでもいいだろう。この言葉は便利だしな。基本音-{高}?倍音、基本振動-{高}?倍振動、基本演算-{高}?倍円運動 とかもいいかも。倍は、振動数、回転数が整数倍されること。