凄まじい乱用の例

ポンサンのテキスト(https://orbilu.uni.lu/bitstream/10993/14274/1/MM4-9November2011.pdf)のP.46の命題15に次の式が出ている。なお、rは実際はドイツ文字(\mathfrak)で \mathfrak{r} \newcommand{\ra}[1]{\rangle_{#1}}  \newcommand{\la}{\langle}

 r_{s*u} X^h_u = X^{Ad(s^{-1})h}_{u.s}

同じページ内に、Xの定義は  X^h := r_*(h) と書いてあるので、次でも同じ。

 r_{s*u} r_*(h)_u = r_*(Ad(s^{-1})h)_{u.s}

括弧と演算子を少し補うと:

 ( (r_s)_*)_u \cdot (X^h)_u = X_{u.s}^{Ad(s^{-1})h}

あるいは、

 ( (r_s)_*)_u \cdot r_*(h)_u = ( r_*(Ad(s^{-1})h) )_{u.s}

これを(ホントに)ちゃんと書けば:

( ( T( ({}^{\cap}r) (s)) )(u) ) \la ( (LL({}^{\cap}r)) (h))(u) \ra{u} =
( (LL({}^{\cap}r)) (Ad(s^{-1})\cdot h) ) (r(u, s))

ある程度の括弧の省略と、下添字引数を使うと:

  T( ({}^{\cap}r)(s))_u  \la  LL(r^{\cap})(h)_u \ra{u} =
 LL(r^{\cap}) (Ad(s^{-1})h )_{r(u, s)}

リー群の表現を ρ:G→Diff(P) とすれば:

  T( \rho(s) )_u \la LL(\rho)(h)_u \ra{u} =
 LL(\rho) (Ad(s^{-1})h )_{\rho(s)(u)}

使った記号の説明:

  1. T : 接写像関手
  2. (-) : 二項演算の右カリー化
  3.  \la \mbox{-} \ra{u} : 点u上のファイバーにおける、バンドル射のファイバー成分の適用。
  4. LL : リー群の圏からリー代数の圏へのリー線形化関手
  5. Ad : リー群の随伴表現、表現空間はリー代数(の台ベクトル空間)
  6. \cdot : 線形写像とベクトルの適用

ポンサンは、最初の等式の下付き添えの省略として次を導入している。

 r_{s*} X^h = X^{Ad(s^{-1})h}

しかし、これはもはや意味が変わっている。今はこれ以上は言わないが。

ここで使われている乱用の技法:

  1. 束縛変数の予約(下に表)と、変数名による意味の変更: ru と rs で意味が変わる。
  2. ラムダ記号の省略
  3. 変数で関数を表す: X = X(h) = Xh の例
  4. カリー化を同一視: r と r と r を区別しない。
  5. 中間の関数の省略: φ(X(h)) = φ(h) としている。
  6. 恣意的な引数位置: 上付き Xh, φX、下付き ru、丸括弧などをテキトーに使う。
  7. 演算子記号、関数記号、括弧の省略: いたるところ
  8. 関手を下付き上付きの星印で表す。

束縛変数の予約:

名前
s 群 G
t 実数
u 多様体 P
X P上のベクトル場  {\mathcal X}(P)
h Gのリー代数