雑多だが大事だと思うことを順不同で。
多様体とアトラス
Mが多様体だとは、M = (UM, AM) と書ける。UMはMの台位相空間〈underlying topological space〉で、AMはMのアトラス集合。次のようにも書く。
- M = (X, Atlas(M))
Xは次のような性質が要求される。
- ハウスドルフ
- 第二可算
- 局所コンパクト
- パラコンパクト
ハウスドルフ/第二可算だけを仮定すると、他は出るが、冗長性を厭わないなら、全部仮定してもよい。
アトラス集合Atlas(M)は、整合性〈consistency | compatibility〉が必要。α, β∈Atlas(M) が整合する〈互換である〉とは、α≦γ かつ β≦γ であるような γ∈Atlas(M) が存在すること; ここで、≦は細分関係〈refinement relation〉。細分関係の定義は割愛。
Atlas(M)には、細分関係での極大元(最大元でもある)が一意に存在するので、それを、maxAtlas(M)∈Atlas(M) と書き、極大アトラス と呼ぶ。アトラス選択の任意性を排除したいなら、極大アトラスを取ればよい。が、あまり便利ではない。
ひとつのアトラスを、概逆〈almost inverse〉と結合に関して閉じた系にすると、MとRnという2つの対象を持った部分写像の圏になる。亜群にはならないが、概逆に関して概亜群〈almost groupoid〉になり制限圏〈restriction catrgory〉にもなる。アトラスは制限概亜群構造を持つ。
写像のアトラス
f:M→N がなめらかな写像のとき、写像fのアトラスは次の形。
- ((φα, Uα)α∈I, (ψβ, Vβ)β∈J, F:I→J, (fα:Uα→VF(α))α∈I)
ここで:
- (φα, Uα)α∈I ∈Atlas(M)
- (ψβ, Vβ)β∈J ∈Atlas(N)
- fα∈C∞(Uα, VF(α))
個々の fα:Uα→VF(α) はチャートと呼ぶ。写像fのアトラスの全体は Atlas(f) Φ∈Atlas(F) に対して、dom(Φ)∈Atlas(M), cod(Φ)∈Atlas(N) が決まる。Φ∈Atlas(f), Ψ∈Atlas(g) に対して、Φ;Ψ がアトラスレベルで定義できるとは限らないが、細分 Φ'∈Atlas(f), Ψ'∈Atlas(g) を選ぶと、Φ';Ψ' ∈Atlas(f;g) が作れる。
多様体の向き
任意の多様体に向きバンドル〈orientation bundle〉 Or(M) = (Or(M), M, {1, 2}, π) を定義できる。だが、定義は簡単ではない。向きバンドルは、S(2)=2次対称群=2次置換群 を構造群とする主バンドルになる。離散群/離散ファイバーなので、向きバンドルは二重被覆空間となる。
向きバンドルが大域セクションを持つとは限らないが、それを持つとき、ひとつのセクションを指定することを向き付けと呼ぶ。向き付け=向きバンドルの大域セクションが与えられた多様体を向き付き多様体〈oriented manifold〉と呼ぶ。
向き付き多様体の圏が定義できて、射は向きを保存する写像。向きを逆転させる写像を入れてもよい。すると、向き付き多様体の圏は、対合〈involution〉付き圏になる。対合作用素は、向きを逆転させる写像。
体積
体積には、符号付き体積と符号なし体積=測度 がある。符号付き体積のほうが扱いやすい。符号付き体積は、向き付き多様体でないと定義できない。最高次〈top dimension〉の外積接バンドル ΛnTM は1次元ベクトルバンドルになる。このベクトルバンドルを向き付き体積バンドルと呼んでもよい。
向き付き体積バンドルは、任意の多様体に定義できるが、大域セクションを持つとは限らない。大域セクションを持つ場合、それを向き付き体積形式、あるいは単に体積形式と呼ぶ。
体積形式を指定された多様体を、体積付き多様体〈manifold with volume〉と呼んでもいいだろう(あまり呼ばないが)。体積付き多様体と向き付き多様体は関連していて、体積付き多様体の下部構造に向き付き多様体がある。
フロー定理
通常、指数写像と呼ばれているものをフロー写像と呼ぶ。そのほうが分かりやすい。
- Flow:(M)×M×R⊃→M
Flowの存在は、「一階常微分方程式の解の存在定理」の多様体バージョンを提供する。フロー定理と呼ぶことにする。
Flowの定義域に関して次の定理がある。
- ∀X∈(M). ∃U⊆M×R.( U is-open ∧ M×{0}⊆U ∧ ( (x, t)∈U ⇒ Flow(X, x, t) is-defined ) )
または、次の形:
- ∀X∈(M).∀x∈M. ∃V⊆M.∃ε>0.( V is-open ∧ ( x∈V ∧ -ε < t < ε) ⇒ Flow(X, x, t) is-defined )
フロー
フロー定理から、ベクトル場Xから、対応するフローが定義可能。XのフローをφX と書く。フローは、しばしば1パラメータ群と呼ばれるが、別に群ではない。群といった単純な話ではない。誤解をまねくから良くない。
実数区間Iの全順序構造から導かれるやせた亜群を □(I) と書く。□(I) から群 Diff(M) への亜群準同型射=関手 をフローと呼ぶ。I = I(-ε, ε) に対するフロー φX(s, t) があるとき、φX(t) := φ(0, t) と定義した一変数のフローがいわゆる1パラメータ変換群である。
Xから定義されたフローを (φX(t))-ε<t<ε : M→M と書く。大域的フローを取れないときでも、(φX(t))-ε<t<ε : V→M は作れる。これはVに限定した局所フロー。
ベクトル場Xから必要な点のまわりの局所フロー φX:(-ε, ε)×V→M が取れれば、必要なことは何でもできる。
フローとリー微分
フローの一番の応用はリー微分。フローの可逆変換(Diff(M)の群元)により、スカラー場(関数)、ベクトル場、コベクトル場(微分形式)の前送りと引き戻しが可能になる。
前送り/引き戻しによる局所移動〈local {displacement | shift}〉により幾何f的量(ファイバー元やセクション)を比較して、微分することができる。リー微分〈Lie derivative〉はベクトル場による微分だが、点局所性により、ベクトル場の一点での値により微分係数が決定する。
関数のリー微分の場合、
- ベクトル場の一点での値, 関数の芽 関数の芽
局所性には次がある。
- 点局所性/一点性 : 一点での値で決まる。
- 芽局所性 : ジャームにより決まる。
- 近傍局所性 : 都合のよい開集合での値ににより決まる。
関数のリー微分=関数の方向微分は、ベクトル場に関して点局所的、関数に関して芽局所的。
フローとリー微分は、多様体の微分構造しか使ってないので、内在的な微分だと言える。リー微分は芽局所的な作用素なので、層論化できる。
様々な微分
内在的な微分作用素は:
- 方向微分: 関数fのベクトル場Xによる方向微分 Xf = ∂Xf 、Xに関して点局所的、fに関して芽局所的。
- 外微分: 関数fの外微分 df 。fに関して芽局所的。結果はコベクトル場=微分形式
- リー微分: ベクトル場Xのベクトル場Yによるリー微分 YX 。局所性?
- 接写像: 接関手により Tf:TM→TN となる。
- ヤコビアン: 接関手のトランジション関数による表現 U→End(TM|U, (f#TN)|U) function がヤコビアン。接写像に比べてだいぶ難しい。
- ヤコビ・リー括弧: 本来は、ベクトル場の加群の代数的な演算。
- 内部積、挿入積: (iXα)(X, X1, ..., Xn) := (dα)(X, X1, ..., Xn) ←ちょっと違う→ https://en.wikipedia.org/wiki/Interior_product interior product (a.k.a. interior derivative, interior multiplication, inner multiplication, inner derivative, insertion operator, or inner derivation)
接続の定義は、エーレスマン水平分布を使うとする。Hを水平分布として、その共変微分は H∇ とする。
接分布の微積分
接分布の微積分は、一階連立偏微分方程式の基本理論の幾何的定式化である。
次の3つが混同されがち。
- 分布=接分布
- 分布を生成する枠ベクトル場=枠場=枠バンドルのセクション
- 分布を余生成する余枠コベクトル場=余枠場=余枠バンドルのセクション
(X1, ..., Xr) が分布を生成する独立複ベクトル場=枠複ベクトル場=枠場のとき、これで生成される接分布を Span(X1, ..., Xr) と書く。
同様に、(α1, ..., αr) が分布を余生成する独立複コベクトル場=余枠複コベクトル場=余枠場のとき、これで余生成される接分布を Cospan(α1, ..., αr) と書く。
局所的な枠場が積分可能なときは、そのコーシー問題の解として、積分写像が決まる。積分写像の像である図形を積分{部分}?多様体と呼ぶ。
局所的な余枠場が積分可能なときも、そのコーシー問題の解として、積分写像が決まる。
接分布のコーシー問題は、それに付随する枠場または余枠場のコーシー問題を定義し、解である積分写像が、接分布の積分多様体を与える。
葉層の微分は常にできるが、接分布の積分はできるとは限らない。積分可能性条件はフロベニウスの定理で与えられる。積分可能性の障害は、ホロノミー群で計れる。ホロノミー群には限定ホロノミー群(曲率群)があり、全ホロノミー群/限定ホロノミー群=モノドロミー群 となる。
- 0→Hol0(M)→Hol(M)→Monod(M)→0
これは完全列だが、どういった意味で解釈するかは難しい。自明ループのモノイドや基本群を含むナニカを定義して、そのナニカのホロノミー表現/モノドロミー表現を構成すべきなのだろう。現状、よく分からない。
類似性
ベクトル空間 | 多様体 | 局所セクション |
---|---|---|
ベクトル | 接ベクトル | 局所接ベクトル場 |
複ベクトル | 複接ベクトル | 局所複接ベクトル場 |
部分空間 | 接部分空間 | 局所接分布 |
アフィン空間と多様体はもっと似てる。
アフィン空間 | 多様体 |
---|---|
単射アフィン線形写像 | 埋め込み |
部分アフィン空間 | 部分多様体 |
アフィンフレーム | フレーム |
定ベクトル場 | ベクトル場 |
アフィンフロー | フロー |
アフィン葉層 | 葉層 |
アフィン空間を事例として多様体を考えるのはいいことだ。
用語、前置詞など
ガリヤー〈Jean Gallier〉の著作で使われていた用語:
前置詞に注意。
- trivializing map = trvialization = trivializer
- fiber bundle over M
- fiber above p
- vector field on U
- lifting of U into T(M)
- section X of T(M) over U,
- vector field X along γ
- Lie derivative of f with respect to X
- derivation = deriving map = ライプニッツ射
- pull-back of Y along h
- push-forward of X along h
- trajectory for X with initial condition p0
- local flow for X at p0
- Lie derivative of Y with respect to X at p