微分リー加群とリー亜代数層と局所可換基底

リー代数Lに対して、ベクトル空間Vに対する表現 ρ:L→End(V) があると、(L, V, ρ) がリー代数Lの表現=L上のリー加群を定義する。

Vが単なるベクトル空間ではなくて、可換環だとして、それをAと書く。ρ:L→End(A) が、特に ρ:L→Der(A) のとき、リー代数Lの微分表現=L上の微分リー加群 と呼ぶ。

R-可換環Aが、R-リー代数L上の微分リー加群になっていて、かつ、Lが通常のA-加群でもある状況が問題となる。リー亜代数の代数的側面はこの構造だと思う。E→M を多様体M上のベクトルバンドルとする。

  1. A = C(M) を基礎となる可換環とする。
  2. L = Γ(E→M) はR-リー代数である。
  3. L = Γ(E→M) は、可換環A上の加群である。
  4. ρ:L→DerR(A) は、リー代数微分表現である。

幾何的概念により定義されるリー亜代数を幾何的リー亜代数と呼ぶ。上記の定義は代数的リー亜代数〈algebraic Lie algebroid〉。

可換環Aの代わりに環付き空間 (X, A) を使って定義したリー亜代数を、リー亜代数層と呼ぶ。環付き空間上の(通常の)加群層Lと、Rリー代数層Lと、微分表現のR線形層射ρからなる。

リー亜代数層 (X, A, L, ρ) があるとき、開集合Uにおいて、Lが局所的に有限階数自由A-加群になっているとする。局所的に有限自由基底を持つ場合、その局所有限自由基底を単に局所基底と呼ぶ。

Lの局所基底 {X1, ..., X}⊆L on U があって、どの2つのリー括弧も0になるとき局所可換基底と呼ぶ。LのAへの微分表現を使うと、「[X, Y] = 0 ⇒ [ρ(X), ρ(Y)] = 0 ⇒ ρ(X)とρ(Y) は作用素として可換」なので「可換」と呼ぶ。

{z1, ..., zn}⊆A が座標として使えることは、これらの外微分 {dzi}⊆L* の相反基底が、接ベクトル場リー代数Lの局所可換基底になっていることだと定義できるかも知れない。

次の事実により計算が簡単になり、同時に構造が見えなくなっているのだろう。

  1. LとL*には、互いに相反な局所有限自由A-基底が取れる。
  2. Lの局所有限自由A-基底は可換なものがとれる。
  3. L*の局所有限可換自由A-基底は、座標関数の外微分で与えられる。

言葉としては:

  1. 局所座標関数の集合⊆A`U を局所座標系と呼ぶ。
  2. C⊆A`U が局所座標系のとき、(A`U)C→L`U を局所フレームと呼ぶ。
  3. C⊆A`U が局所座標系のとき、((A`U)C)t→L*`U を局所コフレームと呼ぶ。ここで、右肩tは転置を意味する。縦タプルと横タプルを考えている。
  4. 局所コフレームの双対A-加群射を局所ゲージと呼ぶ。
  5. 局所フレームの双対A-加群射を局所コゲージと呼ぶ。

座標関数、座標系〈チャート〉、フレーム、コフレーム、ゲージ、コゲージは、いずれも局所的に考えるものだから、「局所」は省略してよい。逆に、多様体全体で定義されているなら「大域」を付ける。

再度、{z1, ..., zn}∈A が座標系であること:

  1. {dz1, ..., dzn} がL*の局所有限自由A-基底となる。
  2. {dz1, ..., dzn} は、単なる基底ではなくて、相反可換基底である。
  3. つまり、{dz1, ..., dzn} の相反基底 {∂1, ..., ∂n} はリー代数Lの可換A-基底となる。

相対可換環 Φ/R 上の加群リー代数R-リー代数でΦ-加群)があるとき、Φ-基底の可換性はすごく重要な問題。だが、あまり強調されない。相対可換環上の非可換結合代数は、交換子積でリー代数になるから、ここでの可換Φ-基底は、通常の意味の可換な要素達になる。

相対可換環上の、非可換結合代数と加群リー代数微分リー加群などをマジメに考える必要がある。